気まぐれ通信No.12. 『The Trial Of The Chicago 7』

アメリカ大統領選挙の勝利は
Black Lives Matterの勝利だと思います
映画『シカゴ7裁判』時代の理不尽な社会から
50年経って変革した今を嬉しく思います

A4の通信を書いています。宜しければご覧ください。
通信版PDFは下のリンクからダウンロードできます。

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The Trial Of The Chicago 7

映画『シカゴ7裁判』観ましょう!

ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞脚色賞を受賞したアーロン・ソーキン監督の最新作『シカゴ7裁判』(The Trial Of The Chicago 7)を観ました。新型コロナウィルスの影響でNetflixでの公開となったこの映画、とても見応えがありました。

1969年にあった「類を見ないほどの衝撃的な裁判」をもとに作られた映画です。1968年と言えば、気まぐれ通信No.6で取りあげたように、4月にキング牧師が暗殺され、続いて6月、大統領選挙の民主党予備選を戦っていたロバート・ケネディが暗殺され、反差別・反戦運動が高まっていた時代。

1968年8月、シカゴでの民主党大会に、共和党ニクソンに勝てる、しかもベトナム戦争反対の立場をとる候補に勝ってもらいたいと、若い民主党支持者たちが集まり、デモを起こしていました。
そこに、警察が乱入。彼らは催涙ガスを巻くなどの強行手段に出たためにデモ隊が激昂。暴動が悪化してしまいました。

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The Trial Of The Chicago 7

ニクソン政権になった1969年2月、8人の男性たちが暴動を共謀した罪で起訴されてしまいます。法廷の外には多くのデモ隊が抗議の声を上げ、州兵が動員される中で8人の裁判が始まりました。当然、全米がこの裁判に注目していました。

民主社会学生同盟のトム・ヘイデンとレニー・デイヴィス、
青年国際党(イッピー)のアビー・ホフマンとジェリー・ルービン、
ベトナム戦争終結運動のリーダーのデヴィッド・デリンジャー
そしてブラックパンサー党のボビー・シール。

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The Trial Of The Chicago 7

ブラックパンサー党のボビー・シールに至っては、他の7人と面識もなく、シカゴに数時間滞在していただけでした。
共謀などできるわけがないボビー・シールには弁護士をつけられることなく裁判が始まり、仲間が警察の捜査で射殺される事件が起こり、彼は激しく抗議します。
それに対してジュリアス・ホフマン裁判官は3日間に渡り、彼を猿轡と鎖で拘束しました。その後、ボビー・シールに法廷侮辱罪で懲役4年を言い渡し、彼をこの裁判から切り離しました。
そして、残りの7人で裁判は進みました。この7人が「シカゴ7」と呼ばれました。

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The Trial Of The Chicago 7+1

差別のための政治裁判

法廷でのジュリアス・ホフマン裁判官の呆れるほど露骨な黒人差別が描かれた場面は、衝撃的で、怒りが込み上げました。
また、潜入捜査、陪審員への脅迫状と被告を有罪にするためには何でもありの裁判が進みます。

実際のシカゴ7裁判は

映画は7人が有罪となって終わるのですが、現実には、この裁判は全てが覆され、全員が無罪になっています。
1970年2月18日に、7名の被告は全員共謀罪では無罪。5名は暴動の示唆で有罪と判決されました。
しかし、有罪判決は全て上訴裁判所によって1972年11月21日に逆転されます。逆転の理由は、司法省が弁護団の質問を認めないなど裁判官に偏りがあったと認め、再審はしないと判断を下しました。

裁判や法廷もその時々の権力者のために偏っていたのです。それを政治裁判と言います。
また、その時代の固定観念や人権感覚によって今では考えられないような判決も下されていました。裁判や法廷が公平・公正なものであるとは限らないのだと思います。

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『イージー☆ライダー』

昔、『イージーライダー』という映画を見て、そのラストシーンの理不尽さに怒りを覚えたのを思い出しました。あの映画もちょうどこの時代のアメリカを描いていました。

Black Lives Matterの勝利

この『シカゴ7裁判』が2020年に公開されたのは意味があると思います。

50年前のブラックパワー・サリュート(The Black Power Salute)は権力や民衆の差別意識で押し潰されていました。けれど、50年後の今、Black Lives Matter運動は全世界にも広がり、今までにない多くの人たちを巻き込んでさらに広がっています。
そして、アメリカ大統領選挙にも大きな影響をもたらしました。「法廷闘争」などと言っている人もいますが、流石に50年前のような政治裁判は行われないでしょう。

Black Lives Matter運動の勝利だと、私は思います。
この50年間のアメリカという国の人権意識の変化に敬意と称賛を贈りたいと思います。
そして、自分たち日本はどうなのかも見直していきたいなと思います。